春と言えば、まずは ささやかに
ユキワリソウだの ツワブキだのがお目見えし、
香りで誘うジンチョウゲに梅と来て、
アシビが梢に小さな房花を揺らし、
日向にスイセンが小首を傾げる中、
お待たせしましたと、そりゃあ華やかに桜が席巻する。
一気に沸き立ち、野や里山を埋め尽くす
緋白の慶雲のような圧倒的な存在感には、
それに並んでいるはずの、モクレンやコブシが、
結構大きい花なのに目立たぬのもしょうがない。
だがだが、
花の命は短いとの喩えにされるのもこの桜で。
しかもしかも、
春先の気候の不安定さとも時期が重なるものだから。
花に風との言いよのあるほど、
無情の嵐に散らされてのこと、散り急ぐ年も少なくはなくて。


　　あーん、あーん…
　　まあらのに、もうなのぉ。
　　かーいそぉなのぉ。
　　あぁん、あーん…




　　　　　◇◇



ほれ、そこの（斜面）なぞえに沿うて、
地味の強い地脈が走っておるから、
その株はそこへ置きな。

　あいvv

　くうたん、おはにゃvv

　こおたん！ おはにゃvv

おお、よお見つけたな こおよ。
それはこれから花がつく。
ああこれ、
そんなに回りを叩くな 土を固めるな。

　はやや、めんちゃい。

　あぎょん、めんちゃい。


裏山の陽あたりのいい斜面の一角に、
頭にもお耳のある和子らの格好の遊び場があったのだけれど。
先のすさまじい春嵐で、そこも散々に荒らされた。
木立は土をえぐって倒れるわ、
小さな下生えの株は下敷きになるわ。
これから咲こうというユキヤナギも千切れていたし、
サザンカもあと少しは咲いてたはずが全部散り落ち、
しなって丈夫なはずの桃の枝も
痛々しくもへし折れて…との惨憺たる在様で。
大きい槇の木の枝が折れ落ちて、
それが食い込んだキンモクセイが薙ぎ倒されているの、
辿り着く前から判ってたらしい仔ギツネ坊や。
一昨日と昨日の、途轍もない風と雨の中には、
とてもじゃないが
危ないので降りてはいただけませぬとのこと、
天の宮から出してもらえずで。
仲良しの そちらは里狐の仔のこおちゃんと二人、
絽のように透いて羽根のように軽い、
そりゃあ温かい天の衣紋をまとったまんま。
天の宮殿のお池に映し出される下界のあちこち、
ハラハラしもって見守っていたとか。
中でも、キンモクセイは あのね？
仲良しの精霊さんがしくしく泣いてたから、
どうしたんだろって ずっとずっと心配してたの。
したらあんね？ こんななっててあのね？と。
話す端からまたぞろ
やわやわでふくふくのお手々を当てた
大きなお眸々を うりゅりゅと
揃って涙に溺れさす和子らだったものだから。

　『だあ、判ったから泣くなっ。』

腰に巌のような拳を当てつつ、
深い吐息を はぁあとつきながら、
雄々しい肩を落としてしまった
阿含さんだったのは言うまでもなくて。

　“何だその“言うまでもない”って言いようはよっ”

きゃああ、何もこっちへ当たらなくとも〜〜♪（苦笑）
大仰に逃げを打ったもーりんに呆れ、
口をへの字に曲げながら、
ぼそりとその分厚い胸板のうちで呟いたのが、

　“枕元でわあわあ泣かれちゃあ、
　　おちおち二度寝も出来やせんわな。”

楢の木の上、春の雨上がりの肌寒さも何のそのと、
うつらうつらしていた蛇神様を、
容赦なく叩き起こした仔ギツネ二人。
自分たちの遊び場が荒らされたからじゃあなくて、
それも彼らにはお友達だった、
小さな草木が傷んでいたのが悲しいと、
自分へじゃあなくの涙が止まらぬようだったので。

　“自然の仕業ならしょうがあんめぇというの
　　まだまだ判らぬ幼さでは、
　　それこそ しょうがあんめぇさね。”

説教も教示も、それが判るようになったらの話。
今は泣きやんでほしい一心から、
しおれた株は陽あたりのいいところへ、
根が傷んだ花は地脈の豊かなところへ そおと移せよと、
小さな助手らを従えて、応急処置に大忙しの蛇神様だったりし。
やがて咲くだろ、ヤマブキや小デマリの梢が、
実は優しい主様のてんてこ舞い、
くすすくすすと微笑うよに、小さく揺れつつ見守っていた。






　　　〜Ｆｉｎｅ〜　　13.04.09．

　　＊いやぁ、凄かったですねぇ、
　　　卯月の爆弾低気圧 第２弾。
　　　先の嵐ではまだ蕾みだったんで、
　　　まだまだ見ごろだった関西の桜も
　　　不公平なしということか随分と薙ぎ払ってってくれましたよ。
　　　近畿だと、あとは京都や奈良ですかね。
　　　東北の桜はこれからですね。
　　　新たな後片付けも大変でしょうが、
　　　ふと手を止めて 眼福を堪能して下さいましね？

　めーるふぉーむvv 　

or ＊